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Dr.コラム
<第1回>「助かるがん」で苦しまないために

Dr.コラム 予防と検診 がんと生活習慣 がん情報のリンク

「がん」は日本人の死因のトップであり、医学が進歩した現在でも最も怖い病気であることは違いありません。でも、「がんに罹らないこと」や「がん検診を受診することで助かること」が、最近の研究でわかっています。助かるがんで苦しまないためには、自ら「がん」をよく知り個々に「対策を立てる」必要があります。

「がん」にかかることは自動車事故!そして、がん検診はシートベルト

人生を車の運転に例えると、「がん」は自動車事故に相当します。事故にあわないようにするには、安全運転すること、そして不運にして事故にあった場合でも 「シートベルト」をすることによって助かることができます。
一方、時速200km以上の猛スピードで走っていれば事故にあう確率が高くなり、そして電柱にでも激突したら、いくらシートベルトをしていても助かりません。また止まっていたところにダンプカーが突っ込んでくるような事故であれば、いくらシートベルトしても防ぎようがないことが想定できます。
がん検診の有効性についてはいろいろ議論があります。これは「がん」も臓器によって、そして同じ臓器においてもさまざまな種類のがんがあり、「予防できるがん」や「がん検診によって救えるがん」もあれば、「予防できないがん」や「がん検診で救えないがん」があることも事実だからです。
しかし、現在では“安全運転とシートベルト”があれば、半分以上は「助かるがん」です。「助かるがん」では確実に助かることが大事なのです。

がんによる死亡は予防可能

これまで、がんの要因は体質(親からの遺伝)によるところが大きいと考えられていましたが、最近の研究では、遺伝を引き継ぐ部分は最大でも20~30%であり、残りは毎日の生活習慣や感染症が関与していることがわかってきました。そこで、がんの危険因子となる生活習慣を改善すること、感染症をコントロールすることで一部のがんは予防できると考えられています。
また、「がん検診を受けておけば治療できる早期のがん」を発見できることもあります。特に日本人に多い胃がん、大腸がん、子宮頸がん、乳がんは、「がん検診」で早期発見されることが多く、がん検診で身を守ることができると考えられています。

がん検診の功罪とそのバランス

一方で、がん検診を受けたことで「がんではなく良性の病変が見つかったが、がんとの鑑別診断のため苦しい精密検査を受けた」「がんの疑いがあると言われて精神的なショックを受けた」などというケースもあり、がん検診には明と暗の部分があります。早期の小さながんを見つける精度の高い検査であればあるほど高額で、また疑陽性(がんではない異状を見つけてしまう)率が高くなります。
がん検診は検査項目によって「効果(早期発見)」と「弊害(疑陽性)」のバランスを考慮する必要があり、「効果」が上回る場合に検診受診を選択することになります。ただそのバランスは人によって異なります。同じ検査でも発がんリスクの高い人にとっては、「弊害」より「効果」が優先するでしょうし、発がんリスクの低い人には「弊害」に重きを 置く必要があります。このことから特別な「がん検診」(例えばPET検診など)を受診することは「弊害」にも目を向けておく必要があります。

がんの発生の予防

集団的な視点で見た場合、「がんの死亡率」を減少させるためには肺がん、咽頭がん、食道がんであれば、「検診」よりも「禁煙支援」の方が、費用対効果が期待できます。 また、「喫煙」は肺がん、咽頭がん、食道がんを含めほとんどのがんの危険因子となっています。つまり、すべての「がん対策」は、実は「禁煙」が第一なのです。
次はアルコールで、適量のアルコールは問題ないのですが、中~大量の飲酒は食道がん、肝がん、膵がん、乳がん、大腸がんの危険因子となっていることが最近の研究で明らかになっています。1日1~2合未満にして飲み過ぎないこと、そして適度な運動をすることで肥満予防になり、その相乗効果が大腸がん、乳がんのリスクを減らします。すなわち、一般の生活習慣病対策が「がん対策」になり、これらのリスクを抱えている方は「制限速度を超えて車を走らせている状態」と考えてください。

健保や行政によるがん検診

理想的ながん検診は、個人個人の発がんリスクに合わせて検診項目や時期を決めていくことです。しかし、残念ながら日本では家庭医制度が根付かず、各人が医師と相談して「がん検診をプランする」ことができません。また、人間ドックも各施設でコースが決まっていて、個別に相談して必要な検査を行ういわゆる「カフェテリア」方式を実施しているところは、ほとんどありません。
「個別検診」をアドバイスできない理由は、検診を不要と削除したため、万が一でも「がん」の発見が遅れたり、あるいは精度の高い検診を推奨して「弊害」が生じたりした場合の訴訟等のリスクを考えているためです。
医師に相談しても、万が一のことを考え「一般的な検査項目が推奨されるだけ」です。健保組合や行政が補助するがん検診は「対策型検診」と言われ個人のリスクを考慮することなく、集団としてがんの死亡率を低下させ、そして多くの人が受診しても「弊害」がすくないものに限定されているのが実情です。

がん検診は車の安全装置・・・自分の身は自分で守る

私たちは「スピードメーターとブレーキのない車」に乗って道を走っている状況だと考えてみましょう。「正確なスピードはわからず、アクセルを踏めばスピードは増すけれどもすぐには止まることはできない」状態です。そんな車に乗っていた場合にどうすれば安全に目的地にたどり着けるでしょうか?
アクセルを踏み込まないこと、すなわち「禁煙」すること、シートベルトをすること、すなわち有効であると実証されているがん検診を受診することです。最低限この対策は必要ですが、実はこれだけでは安全とは言えません。自らのスピードを予測することや自費で安全装置フル装備車に乗れば事故の時に安全性が高くなります。スピードの速い人は、それ相応の安全装備が必要であり、高級車やエアバック(精度の高い検診)も必要になってきます。
これまでがんの原因がわからず、各個人のスピード(がんに罹る速度)は不明でしたが、最近の研究でどの位のスピードで走っているのか、おぼろげながらですがある程度予想することが可能になってきました。自分の生活習慣を振り返って頂くとある程度がんに対するスピードが予測でき、どのような安全装備を車に施せばよいのか対策を立てることができます。

【参考文献】
〔立道昌幸:立道昌幸:シリーズがん検診の今「『助かるがん』で苦しまないために」(ソニー健康保険組合HAIJII2009年12月号)〕

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