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Dr.コラム
<第2回>がんの予防と検診について

Dr.コラム 予防と検診 がんと生活習慣 がん情報のリンク

がんの原因はさまざまで画一的に論じることは難しいですが、最近の研究によって、がんに罹患する「危険因子」というものがわかりかけてきました。 体質(遺伝)の要因もありますが、多くは生活習慣や感染症と関連しています。

胃がん

戦後罹患率が減少するとともに、バリウム検診の普及や内視鏡の発達にて死亡率も減少してきましたが、まだ日本人では多いがんなので要注意です。
近年、ヘリコバクターピロリ菌という細菌が胃に寄生していることが発見され、このピロリ菌と胃がんとの関係が強く疑われています。多くの研究が、胃がんの大部分はこのピロリ菌による慢性胃炎からがんが発生するという仮説を支持しています。したがって、まずピロリ菌が陽性か否かで胃がんのリスクが異なってきます。
ピロリ菌の検査は通常、血液中のピロリ菌に対する抗体を調べますが、ここに注意する必要があります。ピロリ菌は胃の粘膜が炎症によって破壊され胃粘膜が萎縮すると自然と消えていき、抗体も陰性化(疑陰性)してしまうからです。実は、この疑陰性群(胃粘膜萎縮群)の人は胃がんの発生のリスクが最も高いため、ピロリ菌が陰性の人でも最低一度は必ず内視鏡にて胃粘膜の萎縮や炎症の程度を見る必要があるのです。
また、血清ペプシノーゲンを測定することによって胃粘膜の萎縮の有無を調べることができ、萎縮のある人はさらに内視鏡検査などの積極的な検診が必要です。
ピロリ菌陽性の人に対しては菌を殺す除菌療法が勧められ、胃がん予防の観点から早期に除菌をすすめる立場の専門家が増えています。これをうけて、「ピロリ菌による慢性胃炎に対する除菌」も2013年から保険適用になり、胃がん予防において大きな一歩となりました。ただ、①除菌することによって胃がんが予防できたという明確な研究結果が多数得られていないこと、②除菌することによって他の病気を誘発する可能性についてはまだ明らかではないこと、など除菌を国の政策として無料で一斉に行うにはまだ研究が必要なようです。除菌につきましては抗生物質を用いますのでアレルギーや副作用、耐性菌の問題等も含め消化器内科専門医にご相談ください。

肺がん

肺がんにはいろいろな種類があり、原因ははっきりしていませんが、「喫煙」が危険因子となっていることは明らかです。本人の喫煙だけでなく、他人のたばこの煙を吸う受動喫煙においてもその罹患リスクが増加してしまうので注意が必要です。がんによる死亡としても1位になろうとしていますので対策が必要です。検診における通常の胸部レントゲンでは早期の肺がんの検出は困難なことが多く、「低線量らせんCT」という被曝量の少ない検査によって早期がんを見つけることが期待されています。
しかし、小さな病変は良性の病変との区別が難しく、さらに肺からは組織を採取することが難しいため、がんでないのに気管支鏡や手術といった侵襲(体を傷つけたり、体に何らかの変化をもたらしたりしてしまうこと)のある検査や治療を受けてしまう、いわゆる「過剰診療」の可能性もあり、悩ましい問題を抱えています。
喫煙者は、まずは禁煙することが必要ですが、低線量らせんCT検査を用いた肺がん検診が死亡率減少に有効かどうか現在検証中の段階です。

大腸がん

大腸がんは、男女とも増加傾向にあり、要注意のがんです。原因はまだ特定されていませんが、肥満、飲酒、運動不足によってリスクが上がることが明らかになっています。
ポリープ型のがんとすぐに粘膜下に浸潤してしまうがんと2種類ありますが、比較的転移や発育が遅いため、がん検診によって早期発見、早期治療が可能ながんと言えます。毎年「便潜血検査」を受診することで死亡率が減少する効果があることがいくつもの研究で明らかになっています。従って必ず毎年受診していただきたいがん検診の一つです。
また、大腸がんの家族歴のある人や上記リスクのある人については、35歳以上ではある一定期間ごとに「大腸内視鏡検査」を受診することで大腸がんによる死亡を予防できるのではないかと考えています。しかし、この10年で格段の進歩をとげた大腸内視鏡検査も、人によっては挿入が難しい例もあり、検査による弊害もゼロではありませんので、受診に当たっては内視鏡医から危険性の 説明を十分に受けてください。

肝がん

肝がんの原因は、60歳未満ではB型肝炎、C型火炎ウイルスがほとんどです。また、アルコールはウイルス性肝炎から肝がんへの悪性化を増長します。
健康診断などで肝機能異常が認められる場合や人間ドックを受診する場合は、まずはB、C型ウイルスに感染していないかどうか調べることをおすすめします。もしも、ウイルス感染が認められた場合は、肝臓の専門医を受診してください。近年、アルコール性肝硬変や、脂肪肝が原因で起こる肝がんも増えてきており、糖尿病やメタボリックシンドロームと関係すると言われています。
ところで最近、コーヒーの成分がインスリン抵抗性という病態に効くことがいくつかの研究で報告され、肝がんの予防にもなることが明らかになってきました。以前、コーヒーは体に害があるように考えられていましたが、肝臓に関してはそうではないようです。

食道がん

食道がんは、アルコールとの関係が深く「お酒+たばこ」によって危険度が非常に高くなります。特にお酒を飲むと顔が赤くなる人(フラッシングといいます)は、アセトアルデヒドを代謝する酵素の活性が低く、若い時はお酒が飲めず、年をとるに従ってお酒を飲めるようになりますが、飲み過ぎると、食道がんのリスクが飲まない人に比べて30倍以上に上がることが報告されていますので要注意です。
まだ、十分な研究が行われておらず、確証は得られておりませんが、早期であれば、内視鏡による粘膜切除術が可能ですので、上記の危険因子を持つ人には定期的な内視鏡検査が効果があるのではないかと理論的には考えられています。

【参考文献】
〔立道昌幸:立道昌幸:シリーズがん検診の今「がんの予防と検診について」(ソニー健康保険組合HAIJII2010年4月号)〕

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