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Dr.コラム
<第3回>女性特有のがんについて ~10代からの対策が必要~

Dr.コラム 予防と検診 がんと生活習慣 がん情報のリンク

女性で問題になるのは女性特有のがんである「乳がん」や「子宮がん」ですが、実は女性でも「大腸がん」は罹患頻度が高いので注意が必要です(大腸がん検診も必ず受けましょう!)。
日本人の統計では、乳がんは特に40歳代後半の罹患が20年前の2倍になっています【図1】。また、「子宮頸がん」は若年者で増加していると言われています【図2】。
いずれにしても、女性のがんは男性のがんに比べて若い年代から発生してきますので、子宮頸がんのワクチン接種を考えますと10代から対策が必要です。

乳がん

乳がんの発生には、女性ホルモンであるエストロゲンが重要な働きをしています。乳がんにかかる危険因子としては【別表】に挙げた要因があります。該当する方は特に積極的な検診が必要と考えています。
乳がんは早期発見、早期治療ができれば根治できる(完全に治る)がんですので、現在では40歳以上(できれば30歳以上)の女性に対して2年に1度のがん検診が推奨されています。しかし一方で、乳がん検診について注意を喚起する専門家もいます。それは乳がんの診断において、がん(悪性)であるかどうかを一部の組織をとるだけでは正確に判断できず、全部切除してみないとわかりにくいことです。また早期の腫瘤では悪性と良性の区別がつきにくく、がんではない良性の腫瘤に対しても手術や化学治療されてしまう点(これを過剰診療といいます)がアメリカでは問題視されていて、乳がん健診はやや後退ムードです。
ただ、これはあくまで私の個人的な意見ですが、縮小手術の進歩もめざましく、傷跡が残らないようにきれいに取れることもありますので、積極的な検診とともに自らしこりを触知した場合は、すぐ専門医に相談することが大切だと思われます。
乳がんは病期が進むと比較的早期に全身に転移しやすいがんですので、何よりも早期発見、早期治療を第一に考えます。しこりを見つけるためには、マンモグラフィーというレントゲン検査と超音波検査がありますが、40歳未満の方の乳腺組織は密であるのでマンモグラフィーでは診断が難しく、超音波検査が望ましいとされています。しかし、超音波検査は施設により技術の差が大きいため、その差をうめるべく現在、その超音波検査の精度を上げる目的で、技師の研修会が積極的に行われています。

子宮がん

子宮がんには子宮頸がんと子宮体がんとがあり【図3】、両者は全く異なります。子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって引き起こされるがんであることがわかってきました。そこで最近、子宮頸がんについては、HPVに対するワクチンが開発され、厚生労働省の認可をうけて接種がはじまりました。
HPVは性交渉によって感染しますので、性交渉の始まる前の年代に接種することが最も効果的です。諸外国では主に12歳(小学6年生)を対象に接種を奨励し、日本でも無償で行ったり補助金を出す自治体が増えてきました。
このワクチンには既に感染したHPVを排除する効果はないので、できるだけ性交渉経験前の年齢層に接種が求められています。しかし、成人においてもHPV感染を予防する効果が期待できるのではないかと考えられており、接種することが推奨されています。従ってぜひとも受けていただきたいものですので、ワクチン接種に対するソニー健保の補助のあり方を今後、自治体の動きを見ながら検討していきたいと考えています。

一方、現在のワクチンは2価ワクチン〔2種類(16型、18型)のウイルスに効く〕です。日本人の子宮頸がんの60~70%がこの2種類によると言われていますが、あとの30~40%については別のウイルスの型が関与していますので、 ワクチンの効果は期待できません。従ってワクチンを接種したら、検診が不要というものではありません【図4】。
子宮頸がんは定期的に細胞診とHPVの感染の有無を調べることによって早期に発見できると考えられ、検診によって高率に救命できるがんの一つです。性交渉年齢になった場合は①定期的ながん検診を受診すること、②少しでも異常出血などの症状があった場合は必ず検診を受けることが重要です。

しかしながら、欧米では60~80%の女性が子宮頸がん検診を受診しているのに対して、日本では20%前後と非常に低いがん検診受診率です【図5】。がん検診の中でも早期発見に最も有効な子宮頸がん検診を積極的に受診していただくことが大切だと思います。
子宮体がんは閉経前後から発症率が高くなってきます。体がんはエストロゲンに依存するタイプと非依存タイプに分けられますが、危険因子として「閉経年齢が遅い」「出産歴がない」「肥満、糖尿病、高血圧、大腸がん、乳がんの家族歴」などが考えられています。近年の統計では、先進国に子宮体がんの増加傾向が認められますので注意が必要です。現在の子宮がん検診(細胞診)は子宮頸がんの検診を意味し、子宮体がんの検診は一般的には行われておりません。そこで、重要なのが初期症状を早期に見つけることです。
愛知がんセンターの報告では、子宮体がんの5年生存率は全体で85%とのことですので、比較的予後が良好ながんです。その最も大きな理由は、子宮体がんと診断されても、その時点では約60%が早期であり、しっかり治療すれば約80%は治癒する、ということです。従って、子宮体がんで重要な「月経とは無関係な異常出血、おりもの」などの症状が見られる場合は決して放置せず、直ちに婦人科の診療を受けることをおすすめします。

卵巣がん

卵巣は腫瘍ができやすい臓器で、その85%は良性ですが、一部に悪性腫瘍が含まれます。進行するまで自覚症状に乏しいので、「がん」が進行した形で見つかることが多いとされています。検診としてはこれまで腫瘍マーカーのCA125を用いたり、超音波検診を用いたり多くの研究がされてきましたが、特に集団としての死亡率減少効果に有効な検診手段がないため、一般的に積極策はとられておりません。
ただ、3親等内に卵巣がん、子宮がんがある方などは、血液中の腫瘍マーカーであるCA125が卵巣がんを見つける手段となります。任意型検診(自費での検診)として人間ドックなどで検査項目にオプションで追加することができますので、測定した数値が正常値を超えている場合は婦人科にご相談ください。

【参考文献】
〔立道昌幸:シリーズがん検診の今「女性特有のがんについて」(ソニー健康保険組合HAIJII2010年8月号)〕

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