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Dr.コラム
<第7回>女性とがん ~予防と早期発見の最前線~

Dr.コラム 予防と検診 がんと生活習慣 がん情報のリンク

現在、一生涯で2人に1人は「がん」にかかる時代です。また、がんと診断されても50%の人は治る時代ですが、もう20%は今の技術で命を落とさないことができます。
そのためにも、皆さんには、がん予防の「最前線」を知っていただきたいと思います。
中でも女性のがんは「年齢により罹患するがんのピークが異なる」という特徴があり、特に女性は若い年代からライフプランにがん検診を取り入れるべきです。  

女性のかかりやすい「がん」

一般的に、がんは年齢を重ねるほど罹患率が上がります。大腸がんや胃がんがそうです。しかし、女性特有のがんは、年齢によって罹患のピークがあります。性活動や女性ホルモンの分泌による影響が大きいためで、子宮頸(けい)がんは40歳前、乳がんは閉経前後、子宮体(たい)がんは閉経後にそのピークがあります【図1】。
男性に比べると20代から罹患率が増加し、40代で2倍、50代で2.5倍、60代で1.4倍、がんにかかりやすいことも特徴です(65歳以降は男性の方が罹患率は高くなります)。
つまり、女性は男性よりも若い20代から、がん検診をライフプランに組み込む必要があるのです。
欧米の乳がんや子宮頸がん検診の受診率は80%前後あり、その検診の効果によってがんによる死亡率は下がってきています。しかし、残念ながらわが国の受診率は十数%と低く、その対策の遅れと罹患率の上昇からがんによる死亡者数は増え続けています。
がんによる死亡を予防するためには、
1.がんに罹らない(予防する)
2.がん検診で助かる
3.早期のがん関連症状(特に出血)に留意する
この3つの基本があります。ここでは特に「がん検診」についてお話ししたいと思います。

死亡率第1位の「大腸がん」

女性のがんを罹患率からみると1位は乳がん、2位は大腸がん、3位は胃がん、4位は子宮がん、5位は肺がんです。一方、死亡原因でみると1位は大腸がん、2位は肺がん、3位は胃がん、4位は膵臓(すいぞう)がん、5位は乳がんになり順位が逆転しています。これは「乳がんが治りやすいがん」ということを示しています。
女性のがんにおいて注目すべきは、大腸がんです。罹患しやすく死亡数も多い。このことを認識している方が少ないのが現状です。例えば、便潜血で陽性の診断を受けても約50%の方が再検査せず放置しています。厚生労働省の調べでは、大腸がん検診を受けた人は受けない人よりも、その死亡率は70%も下がっていることが明らかになっています。それほど「死亡予防効果のある検診」にもかかわらず受診しない方やせっかくがん検診を受けても精密検査をしない方が多いのが実情です。
便潜血検査を受けるのはもちろんですが、大腸がんが存在していても便潜血で必ず陽性反応が出るとは限らないので、陰性の方も何年かに一度は大腸内視鏡検査を受けることをお勧めします。 女性特有のがんのお話をする前に、まずこのことを皆さんに認識していただきたいと思います。

最もかかりやすい「乳がん」

乳がんは40代をピークに50代半ばまでにかかりやすく、女性が若年層から気を付けなければいけないがんです。生涯16人に1人が罹患するといわれています。乳がんと子宮体がんは20年前と比べ倍以上罹患する人が増えており、また子宮頸がんにおいては若年層の罹患率が上がっています。これらの統計からみると、女性特有のがんは総じて増加傾向にあるといえます。乳がんや子宮体がんが増加した大きな原因の一つに欧米風の食生活が挙げられます。食生活が欧米化したため日本の女性の体格が向上し、初潮が早まり、閉経は遅くなる傾向になりました。そのため女性ホルモン(エストロゲン)の影響を受ける期間が長くなったことが原因の一つとして考えられています。

「乳がん」を予防するためには

乳がんを予防するためには、禁煙は必須です。喫煙者が乳がんに罹患するリスクは、非喫煙者の4倍です。これは肺がんと同程度のリスクであることを理解していただく必要があります。また、受動喫煙でも2.6倍とリスクが高くなることが明らかになっていますので注意が必要です。
閉経後は脂肪組織が増え、脂肪組織にてエストロゲンの合成が盛んになるため、適正体重の維持も大切です。
また、多くの研究結果から大豆に含まれるイソフラボンは乳がんのリスクを低下させることが明らかになりました。だからといって、サプリメントを大量に摂取することは推奨できません。どんながんに対しても、大量にサプリメントとして補給すると、むしろ発がんのリスクを高めてしまうこともあります。あくまで食品からバランスよく摂取することを心がけたいものです。

早期発見で生存率は9割以上、毎月「セルフチェック」を

乳がんは臨床病期ステージがⅠ~Ⅳ期に分かれています【図2】。
閉経後は脂肪組織が増え、脂肪組織にてエストロゲンの合成が盛んになるため、適正体重の維持も大切です。
Ⅰ期で発見できれば、統計上5年後に99%の人が生存しています。Ⅱ期でも90%を超えています。つまり、乳がんは早期発見できれば非常に治りやすいがんだということがわかります。
早期発見のためには、セルフチェックを毎月行うことが推奨されています。生理終了後一週間程度の乳房の張りがない時期が最適です。閉経後は毎月、日にちを決めて行ってください。しこりができやすい場所は乳房の外側上部、次いで内側上部となっています。そのため上部を念入りにチェックすることが肝心です【図3】。

20~40歳は「超音波検査」を 40代以降は「マンモグラフィー」もプラス

乳がんには、腫瘤(しゅりゅう)※1を作らないタイプも存在します。セルフチェックだけでは発見できないがんです。そのため、20代から乳がん検診を考える必要があります。
20~40歳までは乳腺が発達しているため、超音波検査が望ましいと考えられています。乳がんにかかりやすい人は特に検診の必要があります【図4】。
40代以降は、2年に1度のマンモグラフィーが推奨されています。この検査では触診ではわからないような小さな乳がんや、腫瘤を作らない乳がんを映し出すことができます。
また、マンモグラフィーの結果がカテゴリー3以上の方は、必ず精密検査を受けるようにしてください【図5】。受診時期はセルフチェックと同様、生理終了後一週間程度が最も適しています。
※1腫瘤…しこり

「乳がん」は最も「個別化医療」が進んでいるがん

乳がんは腫瘍の大きさにより治療の方法は異なりますが、患者一人ひとりのがんの特性に合わせて治療法を選択する「個別化医療」が最も進んでいます。
万一しこりが見つかったときは慌てず、乳腺専門外来を受診してください。乳腺の専門は産婦人科ではなく外科ですが、最近では乳腺の専門外来がある病院が増えています。インターネットで「ブレストセンター」「ブレストケアセンター」と検索すれば、専門病院が見つかります。また、「日本乳がんピンクリボン運動」の公式サイトには、女性医師による専門外来も紹介されています。

若年層で増えている「子宮頸がん」 閉経後にかかりやすい「子宮体がん」

子宮がんには、子宮頸がんと子宮体がんの2種類があり原因が全く異なります【図6】。
子宮頸がんは「ヒトパピローマウイルス(HPV)」というウイルスが原因です。危険因子に不特定多数性交がありますが、このウイルスは性病の原因菌ではなく、誰でも感染するウイルスです。感染しても多くは免疫によって体外へ排出されますが、0.15%だけががん化します。最近では、20、30代の若年層に増加傾向を認めます。このがんも喫煙が重要なリスクで、吸っていない人に比べると、3.4倍もかかりやすくなりますので注意が必要です。

子宮体がんは閉経後の女性に多くみられ、乳がん同様エストロゲンの影響ではないか、と考えられています。
また、残念ながら現在、有効な検診方法はありません。「細胞診」はあくまで子宮頸がんの検診ですので注意が必要です。
子宮体がんの場合、早期がんでも不正出血、おりものの増加など症状が現れるので、自分で注意していれば早期発見も可能ながんなのです。特に不正出血があったら、必ず医師に相談してください。また、子宮体がんにかかりやすい人は、特に不正出血などの異常に注意していただきたいと思います【図7】。

子宮頸がんは発見しやすいがん20歳以上は必ず細胞診を

子宮頸がんの検診には、頸部の細胞をこすりとり観察する「細胞診」が有効です。20歳以上になったら必ず受けたい検診です。
また、最近では細胞診と同時にヒトパピローマウイルスの有無もわかります。細胞診と併せて受け、両方陰性ならより安心できます。
子宮頸がん予防のワクチンも開発されていますが、それで予防できるウイルスは、ヒトパピローマウイルスの「16、18型」のみです。このウイルスによる子宮頸がんは全体の60%なので、ワクチンで完全に子宮頸がんを予防できるわけではありません。また、すでに感染している場合には効果がありません。これらの理由からワクチンの予防接種が子宮頸がん検診の代わりになるわけではないので、ワクチンを接種しても必ず検診を受けていただきたいと思います。

2013年6月14日 厚生労働省発表
子宮頸がん予防ワクチンによる副作用の報告を受け、子宮頸がん予防ワクチン
接種の積極的な推奨を一時中止することを発表しました。
※詳しくは、厚生労働省のホームページをご覧ください。

原因が解明されていない「卵巣がん」

卵巣がんは50~60歳で顕著に増加傾向にあるがんです。しかし、原因などは明らかになっていません。危険因子としては近親者に卵巣がんの人がいたり、出産歴がなかったり、多嚢胞性(たのうほうせい)卵巣症候群などの病気の既往や肥満、排卵誘発剤の使用歴などが報告されています。
特に症状がないため、腹部腫瘤や転移などがんが進行した症状として発見されることが多く女性特有のがんとしては予後の悪いがんです。特に有効な検診はありませんが、人間ドックなどで腫瘍マーカー「CA125」が高値を示した場合は、卵巣がんの精密検査を受けることをお勧めします。

多くはピロリ菌感染が原因の「胃がん」

胃がんの多くはピロリ菌感染によるもので、ピロリ菌感染によって胃粘膜萎縮が進むほど、がんにかかりやすくなります。ピロリ菌感染のない人が胃がんになることはごくまれです。
血液検査だけで手軽にできる「胃がんリスク検診(ABC検診)」を紹介します(※印参照)。この検査によって自分の胃がんのリスクを知り、それに応じた検診内容と検診頻度を決めることが可能です。
また、ピロリ菌に感染している場合、ピロリ菌を除菌することは、胃がんの予防に有効であると考えられています。ただし、ある程度胃粘膜萎縮が進んでしまうと除菌による予防効果が限定的なので、若いうちに検査を受け、除菌することをお勧めします。除菌については、2013年に保険適用になりましたので消化器内科専門医に相談してみましょう。 ※ABC検診と胃がんのリスクについてはこちらをご覧ください。

「自分のリスク」を知り、「検診を活用」した「がん対策」を!

がん対策は、ご自身のがんにかかるリスクを知ることから始めていただければと思います【図8】。
リスクがある方は特に、またリスクが少ない方も、先に述べたように年齢に応じて、受診するべき対策型の検診と、もしものために受けておきたい任意型の検診の受診計画を立てることをお勧めします【図9】。
ライフプランとしてがん検診を考えるとしっかりがん対策を行うことができます。また、がんについてはエビデンス(科学的根拠)のしっかりした、正しい情報を得ることが大切です。国立がん研究センターのWEBサイト「がん情報サービス」は最も信頼がおける情報が発信されていますので、大いに活用しましょう。


【参考文献】
〔立道昌幸:「女性とがん~予防と早期発見の最前線~」(ソニー健康保険組合HAIJII2013年1月号)〕

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