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Dr.コラム
<第8回>がんとどう向き合うか…

Dr.コラム 予防と検診 がんと生活習慣 がん情報のリンク

2013年5月、アメリカの人気女優アンジェリーナ・ジョリーさんが「乳がん発症予防のために乳房を切除・再建する手術を行った」というニュースが世界に流れました。このニュースを交えて、私たちは乳がんを含め「がんとどう向き合うべき」なのか?考えてみたいと思います。

あなたならどうする?

アンジェリーナ・ジョリーさんが、「乳がん発症のリスクが高まる遺伝子の変異が見つかったため、予防措置として両乳房を切除する手術を受けた」との報道が世界を駆け巡り、大きな反響を呼びました。この遺伝子変異がある場合の乳がん発症率は、最高で80%に及ぶと言われています。この数字を目の前にした時、みなさんなら、どのような行動をとるでしょうか?

ジョリーさんのように予防的に両側乳房を切除するのも一つの選択肢ですし、できるだけ頻回に検診を受けて早期発見に努めるのもその一つでしょう。この結果に落胆する人や、逆に今こそ人生を謳歌するときとばかりにやりたいことをやる方もいるかもしれません。

結局どのような選択肢を取るかは、医師が決めることではなく、正確な健康情報を得て、ご自身の人生の価値観を基に、ご自身が決めることです。今回の場合、80%という数値が問題となっていますが、もしこれが50%だとしたらどうだったでしょうか?実はこの話題において注目すべき点があります。

それは、がんになる確率が高いことを知り、自らがんの正確なリスクを調べたいと考え、そして自ら検査を受け、検査結果の持つ意味を理解し、自ら対処法を選択したという一連の行動が「がんと向き合う姿」であることを、世界中に示したことです。

がんと向き合う

私たちは人生において二人に一人、つまり50%の方は、いずれなんらかのがんに遭遇します。とすると私たちは、人生の中できちんと「がんと向き合う」必要があるのではないでしょうか。
がんと向き合うとは、「自らがんに対して何らかの対策をとる」ことを意味します。
それでしたら、正確に自分のがんのリスクを知りたいところです。日本でも遺伝子の検査でがんの発症率を明確にしようとする「ミレニアムプロジェクト」というものがあり、巨額の研究費が投じられました。しかし、予想に反して、今回のジョリーさんのような一部の遺伝性がんを除き、大半のがんは遺伝子検査だけでは明確な発症率は数値化できず、生まれ持った遺伝的要因よりも生活習慣や感染症などの後天的因子の方が重要であることが明らかになりました。つまり、がんは生活習慣等の改善によって発症の予防が可能であることが示されたのです。

※がんと生活習慣については、こちらをご覧ください。

がんに関する正確な情報

ご自身でがんと向き合おうと考えたとき、個別の臓器ごとでは専門医に相談することができますが、総合的に相談できる場がありません。
そこで、がん対策には、自ら健康情報を収集して、自分の生活習慣から発症の危険性を考え、自ら納得して妥当な検査を受けることが必要になります。そのためには、正確で分かりやすい健康情報が不可欠です。
そこで、国の施策として、がんについて正しい情報を広げようとして作られた組織が国立がん研究センターのがん対策情報センターです。ここから発信される「がん情報サービス」が日本でのがんに関しての情報を一番正確に得ることができますので、大いに活用いただければと思います。

※がん情報については、こちらをご覧ください。

ライフプランに取り入れたいがん検診

これまでの『がん予防ガイド』でも取り上げてきましたが、がんは交通事故のようなもので、避けられない事故もありますが、自ら注意していれば防げる事故もたくさんあります。シートベルトをしていれば、事故死を防げる確率が高くなります。
シートベルトは『対策型検診』のことを意味し、行政や健保を中心に毎年や隔年の受診が推奨されている検査項目のことです。まずは、この『対策型検診』の受診は必須と考えてよいと思います。

さらに、自分でリスクが高いと考えられるがんについては、『任意型検診』として人間ドックのオプション項目などで精密な検査を追加する形となります。私は、このオプション検査をライフプランの中に組み入れることを提唱しています。
現在の医学の水準で、検診でがん早期発見が可能な臓器は、胃、大腸、乳房、子宮頸部、肝臓そして肺です。それ以外では、検診による早期発見はあまり期待できません。ですから、せめてこれらの臓器におけるがん対策は行っておきたいものです。

自ら選択する『任意型健診』について

胃は、なるべく年齢の若いうちに、ピロリ菌感染の有無、胃粘膜の萎縮の状態を調べておきたいです。ピロリ菌の感染や萎縮があるかどうかで胃がんのリスクが相当異なります。ピロリ菌は血液検査で抗体を調べる検査が一般的ですが、陰性の場合でも、できるだけ複数の検査法、例えば、内視鏡、便中ヘリコバクター・ピロリ抗原や、呼気テストなどでピロリ菌の感染がないことを確実にしましょう。自費となりますが、消化器内科で相談すると実施してくれます。
一方で、もしピロリ菌抗体陽性の場合は、内視鏡検査を受けるとともに除菌(現在では、内視鏡検査において胃炎と確定診断されると、保険適応になります)をお勧めします。除菌後の胃の粘膜の状態を内視鏡で観察することによって、今後の内視鏡検診の間隔を決めていくことになります。
なお、生活習慣としては、塩分の摂取が危険因子になりますので塩辛いものは要注意です。

大腸

大腸には、割合は低いですが、乳がんと同じく遺伝性の大腸がんが数%存在します。その場合は消化器専門医に相談してください。しかし、大半の大腸がんは遺伝とは関係ありません。一般的な大腸がん検診としては便潜血検査が簡単で効果的ですので、これは毎年受診されるべきです。また、運動不足、アルコールの多飲などが大腸がん発症の危険因子となりますので、該当する方は、さらに精度の高い大腸内視鏡検査を2、3年ごとにでも取り入れることを考えてみてください。

乳房

乳がんは、ジョリーさんのような遺伝性の乳がん(これを遺伝性乳がん、卵巣がん症候群といいます)について、日本人では少ないとの認識でしたが、まだまだ研究の途上で、その割合は、欧米との間に差がないという報告もあり、ご自身、ご親族(一親等、二親等)に該当する方がおられる場合は、遺伝子カウンセリングが推奨される動きがあります。
乳がんは、①初潮が早い、②月経周期が短い、③閉経が遅い、④出産や授乳を経験していないなどが確立された危険因子です。肥満は、閉経の前後で異なり、閉経後は肥満が危険因子となります。また、喫煙、飲酒習慣はリスクを高める可能性があると言われていますので要注意です。
今回、遺伝子検査の件が話題になりましたが、そもそも全体で16人に1人が乳がんに罹患する時代ですので、40歳以上の皆さんに2年に1回のマンモグラフィーの受診が推奨されています。尚、40歳未満でハイリスクの方には、超音波やMRIを使った個別の検診もありますので、乳腺専門医への相談をお勧めします。

子宮頸部

子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染がその原因と考えられています。HPVに未感染であれば、ほとんどリスクがないと考えてよいと思われます。細胞診の検査の時に同時にHPV検査を受けることができますので、数年ごとにHPV検査を受けておくとよいでしょう。
子宮頸がんは20歳代から発症しますので、必ず2年に1回の細胞診を受けてください。

肝臓

肝臓は、40歳までには血液検査で肝炎ウイルスの有無を調べておきたいです。健康診断等で肝機能異常がありましたら、その時は、必ず肝炎ウイルスチェックをしてください。肝炎ウイルスが陰性の場合、大量飲酒家でなければほぼ肝がんの危険はありません。ただ、今後気をつけておかなければならないのは、メタボの方や糖尿病の方は、非アルコール性の脂肪肝炎から、肝がんに至るケースが指摘されていますので、そのような現病をお持ちの方は、主治医と相談の上、肝臓の超音波検査やCT検査を加える必要があります。

肺は、喫煙者の場合、まずは、禁煙が第一であることはいうまでもありません。ただ、禁煙後も肺がんのリスクが下がるには時間がかかりますので、その間、らせんCTによる早期発見を考慮する必要があるかもしれません。
らせんCTは、被ばくの問題もありますので、非喫煙者には積極的には勧められませんが、50歳以上の喫煙者には、勧める報告もあります。

任意型検診については、こちらをご覧ください。

がんは、検診そのものに利益と弊害があるため、受診の最終決定はご本人の理解と意思によることになります。今後も、正確で分かりやすい情報を発信していきます。ぜひとも、がんに関する正しい知識を入手し、自らがんと向き合うことを考えていただければと思います。

【参考文献】
〔立道昌幸:シリーズ がん検診の今「がんとどう向き合うか…」(ソニー健康保険組合HAIJII2013年7月号)〕

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