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Dr.コラム
<第9回>あなたはご存じでしたか?「大腸がん」は“対策可能ながん”なのです

Dr.コラム 予防と検診 がんと生活習慣 がん情報のリンク

がんは発生する臓器によって性質が大きく異なり、同じ臓器に発生したがんでも様相が異なります。例えば、膵がんは難治がんの一つで、生存率はこの50年ほとんど変わっていません。今闘っても勝ち目は少ないがんです。
一方で、がんには「予防できるがん」や「がん検診によって救えるがん」もあります。その代表である「大腸がん」についてみてみましょう。

増え続ける大腸がん

実際に統計をとってみると、日本人において大腸がんにかかる人(罹患者数)は増加しています。がんは遺伝因子よりも環境因子、つまり、日常生活によって増減します。これまでは欧米人は大腸がんが多く、日本人は少なかったのですが、この50年で大腸がんの罹患者数は増加し、欧米人を追い抜くほどです。
肉類や乳製品などの摂取量が多くなったことがその原因であると考えられてきましたが、最近では、それに加え、運動不足、肥満が危険因子であることが明らかになりました。
一方で、便秘や食物繊維の摂取不足などが大腸がんと関連があるように思われていましたが、便通や食物繊維の摂取との関係はあまり明確にはないようです。

大腸がんによる死因は女性第1位、男性第3位

ここで特に強調したいのは、女性のがん死因の第1位は「大腸がん」であることです。もちろん、女性特有の乳がんが罹患者数は第1位ですが、死亡となると大腸がんが上回ります。というのも、女性の大腸がんの検診受診率が低く、また後でお話するような便潜血検査で陽性が出ても精密検査を受ける人が少ないことが、早期発見を困難にしている原因の一つと考えられています。
「女性は乳がん!」と考えられがちですが、実は、大腸がんが最も無関心ではいけないがんなのです。

大腸がんの種類と検査方法

大腸がんには大きくわけると2つの発生ルートがあると考えられています。1つはポリープ型で、良性のポリープができてそれが大きくなりやがてがんに変化するタイプです。このタイプは比較的進行は遅いので、ポリープさえ見つけて取っておけば将来がんになる心配はありません。
もう1つのルートはポリープを作らず、直接にがん化してしまうタイプです。これはすぐに粘膜の下に潜り混み、リンパ管や血管を通って転移しやすいタイプになります。昔はよほど熟練した内視鏡医でないとこのタイプの大腸がんの早期発見はできませんでした。
しかし、最近では、内視鏡の機器の進歩に加え、内視鏡医の診断技術が向上し、この難敵を早期発見できるようになりました。また、内視鏡では見逃しやすいところを、CTを使って大腸の多数あるヒダの裏側まで見ることができるようになりました。さらには、内視鏡が入りにくい人にはカプセル内視鏡といって、口から小型カプセル型の内視鏡を飲み込んで観察する方法も保険適応になっています。

便潜血検査、されど便潜血検査

今、大腸がんの検診で実施されているのが「便潜血検査」です。これは便の中に血液の成分が入っていないかどうか調べる検査で、消化管の中で出血があれば陽性となります。この検査は、感度(がんがあれば見つけ出す精度)も特異度(もしがんがなければ、陰性となる精度)も決して高い検査ではありません。
しかし、検査自体は便を容器にとって検査に出すだけですので、全く侵襲(痛みや危険)はなく経費も安い検査です。先ほどお話しした最先端の大腸がん発見の検査法に比べると、二昔前の検査です。されどこの検査はあなどれず、便潜血検査を受ければ70%もの人が大腸がんで死亡するのを防ぐことができるのです。
ですから、なんと言っても、便潜血検査は必ず毎年受けていただきたい検査になるのです。もし、これで陽性になれば、必ず精密検査(主には大腸内視鏡検査)を受診していただきたいと思います。

実は便潜血検査で「陽性」という結果が出ても、精密検査を受けないで放置される方が結構多くいらっしゃいます。「自分は“痔”があるから」「特に症状がないから」、また女性では「生理だったから」という理由で精密検査を受診されない方を多く見かけます。これは大変危険なことです。先ほどお話しした、ポリープタイプもすぐに潜るタイプのがんも出血しやすいので、便潜血検査が陽性であれば、これらのがんが潜んでいる可能性が非常に高いからです。

大腸がん検診を勧めるもう一つの理由

大腸がん検診を勧める理由はもう一つあります。まず、確定診断がほとんど侵襲のない(痛みも危険もない)生検でできること。早期がんであれば「粘膜切除術」といって、これも痛みのない方法で、それほど大がかりではない内視鏡による切除が可能なこと。万が一進行がんでも肛門に近い直腸がん以外のほとんどの結腸がんでは、手術後でもそれほど生活に支障なく生活の質が保てることなどが理由に挙げられます。
大腸がんは、早期発見、早期治療が可能であり、検診の効果が最も期待できるがんです。
できれば、35歳以上の方は、毎年必ず便潜血検査を受けていただきたいこと、40歳以上では、2~4年ごとに大腸内視鏡検査を受け、大腸がんの早期発見に努めていただければと思います。
なお、最近では「大腸がんは運動により高い予防効果がある」という研究報告が数多くされています。さあ、今日からでも日常的に身体活動を高め大腸がんになることを防ぎ、定期的に検診を受けることによって大腸がんから身を守りましょう。

【参考文献】
〔立道昌幸:シリーズ がん検診の今 「あなたはご存知でしたか?「大腸がん」は“対策可能ながん”なのです」(ソニー健康保険組合HAIJII2014年4月号)〕

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