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Dr.コラム
<第10回>「肺がん」を考える

Dr.コラム 予防と検診 がんと生活習慣 がん情報のリンク

現在、日本において、がんで命を落とす危険が一番高いのが男女ともに「肺がん」です。この順位は当分続くと思われます。肺がんは高齢になればなるほど罹り(かかり)やすくなります。少し前に推測された生涯罹患率(50歳以上の方が死ぬまでに肺がんにかかる確率)は、男性で7.8%、女性で3.1%、死亡する確率は、男性で6.7%、女性で2.7%ですので、おおまかに言うと「男性では15人に1人が肺がんで命を奪われる」ことになります。
また、罹患と死亡の率が近いことからわかるように、肺がんは進行するまで症状が出にくく、腫瘤が小さいうちに転移が起こってしまうため、難治性のがんの部類に入ります。

喫煙と肺がんの関係

肺がんの原因としては、喫煙が圧倒的に重要な因子です。男性では肺がん全体の約30%は喫煙によるものと推測されていますので、タバコを吸わなければ約30%の方の肺がんは予防できると考えられています。団塊の世代以前では、ほとんどの男性が喫煙経験者です。したがって、日本では戦後、この高い喫煙率に比例して肺がんの罹患率が急速に増えてきました。【図1】に喫煙率と肺がんの死亡率との関係を示しました。両者の関係は30年近いタイムラグがあると考えられています。諸外国では喫煙対策が早くからされてきたので、すでに肺がんは減少してきていますが、日本は喫煙対策が遅れたため、最近ようやくその効果が出始めたところです。

罹患リスクを高める受動喫煙

喫煙者は肺がんの罹患リスクが約4倍上がるだけでなく、受動喫煙の方にも30%程度リスクを上げてしまいます。肺がん予防のために、禁煙することに加え、しっかりと分煙することが求められています。ただ、喫煙だけが肺がんの原因ではありません。受動喫煙のない非喫煙者においても肺がんは発生します。
喫煙と強く関係する肺がんは扁平上皮がんといって気管支の中枢側(入り口)にできやすいタイプです。欧米ではこのタイプが一般的です。
一方で、腺がんという喫煙との関係がそれほど強くないタイプが日本人には多く、特に非喫煙者の女性では、この腺がんが90%を占めます。腺がんは扁平上皮がんと違って、肺の末梢部分(肺胞)にできやすい性質を持ちます。

肺がんから身を守るために

肺がんから身を守るには、まずはタバコを遠ざけることで、禁煙することが必要ですが、知らないうちに受動喫煙している場合も多く、この対策も自ら積極的に考える必要があります。分煙のされていない飲食店などには極力入らないことも一つの手段です。
また、これまで、抗酸化作用をもつビタミン類などのサプリメントで肺がんが予防できないか、いくつか研究がされましたが、効果がないどころか逆に肺がんの危険を高めてしまう結果に驚かされたこともありました。
したがって、肺がんを予防する特効薬は今のところないと考えていただいてよいと思います。

3つある肺がん検診

喀痰細胞診

喫煙と関係が深い扁平上皮がんは気管支の入り口近くにできやすいタイプですが、これは心臓や大血管と重なりあってしまうため、なかなか画像でとらえにくいものです。
このタイプに関しては、喀痰細胞診(かくたんさいぼうしん)が有効です。国のがん検診ガイドラインで、喫煙者に喀痰細胞診を勧めるのはこうした理由からです。

胸部レントゲン検査

腺がんは末梢型といって肺の奥にできやすいタイプです。これは画像検査で比較的検出しやすいので検診で早期発見が可能です。
定期健診で実施される胸部レントゲン検査でも早期肺がんが検出可能な場合もありますが、胸部レントゲン検査では、心臓、肋骨の陰や、血管と重なるため、転移する前の早期肺がんを確実に見つけるには限界があり、CT検査を追加する必要が考えられてきました。

低線量CT検査

胸部CT検査(らせんCTと呼ばれるもの)は、相当高い被ばくを受ける検査でしたので、一般に検診に用いるのは不適当と結論づけられています。しかし最近では、低線量でも解像度の優れたMD(multi-detector)CTが登場し、検診で使われるのはこの低線量CTが主流となりました。(被ばくの問題は軽減しましたが、ご自身がCT検診を受けられる時は、その被ばく量を確認してください。低線量とは数ミリシーベルト以下のことを言います)。
低線量CT検査の登場で、かなり小さな早期がんも見つけることが可能になりました。ところが、発見された腫瘤の悪性度に関する確定診断には、針を刺しての生検や気管支鏡を用いた細胞診という侵襲(しんしゅう)的な検査が必要になる場合があります。また、それらの検査をしても診断がつかない場合もあり、結果として切除を必要としない病変を手術等しなくてはならない状況になる場合があります。

このように一見有用な検査法であるCT検診ですが、肺の組織を採ることが容易でないため、受診者にとって「不利益(デメリット)」を生じる可能性もあり、検診を受ける場合はメリットとデメリットの説明を十分受けて理解する必要があります。
低線量CT検診は、まだ研究途上のため、どのような人にどの程度の間隔で受けたらよいか具体的に示すことができておりません。そのため現時点で国策としては、40歳以上を対象に毎年胸部レントゲン(+喫煙者には喀痰細胞診)を受診することが「対策型検診」として推奨されており、低線量CTはあくまで「任意型検診」として自らの希望で受診するという位置づけになっています。

これからの研究成果によってCT検診の位置づけは日々変わっていくと予想されますので、「肺がんCT検診ガイドライン」等で最新の情報を入手していただければと思います(現在、関連学会が共同して「肺がんCT検診認定機構」を立ち上げ、認定医リストを設けています。詳しくは、ホームページをご覧ください)。

進歩した抗がん剤治療

肺がんも早期発見、早期治療(切除)によって治癒が可能であることは間違いありません。しかし、肺がんの種類は多種多様であり、手術だけが選択肢ではありません。抗がん剤が効くタイプのがんもあることが解ってきました。
特に最近は、分子標的薬という種類の抗がん剤が開発され、それぞれの人のがんの遺伝子の特徴(サブタイプ)によって抗がん剤が選択されます。分子標的薬の特徴は、がん細胞のみを攻撃しますので、正常細胞への影響が少なく副作用が抑えられる利点を持ちます。肺がんと診断されても、そのサブタイプを検査してもらい分子標的薬の適応がないか主治医にご相談していただければと思います。

まとめ

超高齢社会を迎え、今後も加齢とともに増える肺がんとどのように対峙していくか?私たちは考える必要があります。
個人的な防御としては、禁煙や受動喫煙対策をするとともに、早期であれば治癒も可能ですので、肺がん検診への関心を高め、定期的にチェックしていただくことが必要と思われます。

【参考文献】
〔立道昌幸:シリーズ がん検診の今「肺がん」を考える(ソニー健康保険組合HAIJII2014年10月号)〕

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