ソニー健康保険組合

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Dr.コラム
<第4回>大切な“マイ検診プラン” ~がん検診をキッカケに人生と向き合うために~

Dr.コラム 予防と検診 がんと生活習慣 がん情報のリンク

現在の統計では、生涯で男性2人に1人、女性3人に1人ががんにかかり、最終的に4人に1人はがんが原因で亡くなります。 がんは、加齢とともに罹患率が上昇するため老化現象の一つであるとも言えますが、命に直結するため私たちは、どうしてもがんと向き合って生きていく必要があります。特に働く世代の死因の第1位はがんです。
ソニー健保では現在、ABC検診を「バリウム検診の代替」として積極的に扱っていませんが、多くの健康保険組合でも注目している検診法ですので、ここで少し詳しく解説したいと思います。

がん検診の光と陰

がん検診には、がんを早期に発見し、治療ができるという光(利益)の部分が強調されますが、多かれ少なかれ陰(不利益)の部分、すなわちがん検診を受けることによって「検査で異常あり」と言われたために「がんでないのに不要な心配をしたり、過剰な検査や治療を受ける」こと(過剰診療といいます)があります。
例えば、肺のらせんCTでは、根治(完全に治る)可能な小さな肺がん病変も見つかりますが、結果として良性腫瘍であったにも関わらず、がんとの鑑別がつかないので手術をされたというような不利益があることが指摘されています。
しかし、肺がんは早期発見しなくては、非常に予後の悪いがんであるため、らせんCTに期待されていることは事実であり、利益と不利益のバランスをどのように考えるかが難しいのです。

生保プランのように考えてみる

私は「がん検診を生命保険プランと同じように考えてはどうか?」と提唱しています。生命保険に加入する時、生保のプランナーがパソコン画面を見ながらあなたの収入や支出、人生設計を中心にご家族の構成を考え、色々なケースを想定しながら個人個人に納得のいくプランを提示していきます。がん検診にもこのようなフェイス to フェイスでプランを考える機会があればよいのですが、日本では家庭医制度が発展していないため、医師と相談してがん検診プランを考える機会はほとんどありません。
また、相談された医師の方も、「受診しなくてよい」と受診を推奨しなかったために後で進行がんとして見つかった場合や、逆に、受診を推奨したために過剰診療されたということで、責任問題に発展することを考えると、医師が主体になってがん検診を提案することはまず困難です。あくまで本人の意思が前提となります。最近では、人間ドックに色々なオプションとして任意型のがん検診が含まれていますので、それらを自ら選択して受診することができますが、それぞれの検査における利益と不利益の説明が十分でないので受診する方も色々悩むのではないかと思います。
各検査の内容については、国立がん研究センターのがん情報サービス「がん検診について」に詳しく出ていますので参考になると思います。

これが私の“マイ検診プラン”

以下は、私個人のプランですのであくまで「つぶやき」としてお読みください。
ちょうど私は今年で50歳、妻は47歳で、子どもは15歳、13歳、11歳です。とりあえず、末っ子が大学を卒業し、誰か一人でも結婚するまでは生きていたいと思います。そこで当面65歳までのがん検診プランを考えてみました。
「がんは定年以降に罹患率が急上昇するけれども、定年以降は対策型検診にまかせ、働き盛りでのがんから身を守れるものは守りたい」というのが私の思いです。そこで若い時にはよりたくさんの任意型保険に入っておきたいという考えです。(もちろんその逆の意見もあるでしょう)

肝臓と胃、食道

私は40歳の時に、がんの予防法が明らかになっている肝がんの危険因子である肝炎ウイルス(B型、C型)をチェックしました。その際、日本人が一番多く罹患する胃がんについて、その原因となるピロリ菌に感染しているかどうかを判定する抗体検査も血液検査でペプシノーゲンと一緒に検査しています。ペプシノーゲンとは胃の粘膜の萎縮を見る検査で、萎縮が進んでいると胃がんにかかりやすいと言われています。
一応ピロリ菌抗体はマイナスでペプシノーゲンも正常値。これらの結果からすると胃がんのリスクは低そうです。しかし、内視鏡で胃の粘膜の状態を見ておいた方が安全ですし、実はそれ以上に問題なのは、私自身は酒を飲むとすぐに顔が赤くなるタイプ、しかもここ数年にわたって仕事上の飲み会が続いており、晩酌もするようになりました。これだと食道がんのリスクが30倍ほど高くなることが知られています。そこで、胃内視鏡は、胃がん検診と言うより食道がん検診のために最低でも2年ごと(できるだけ毎年)行うことにしております。
いずれにしても、これからの50歳代はアルコールを飲む量を減らし、野菜・果物を多めにとる食道がん対策を心がけなければなりません。

大腸

次に大腸ですが、最近運動不足で太り気味であることなどから、リスクが高いことが考えられます。大腸内視鏡検査はこれまで盲腸までの挿入に技術を要しましたが、ファイバー等の発達により手技的な問題は解決し、ほとんどの施設で全大腸検査が可能になってきています。
ただ、「腸の癒着などがある場合」や、「腸が長く挿入困難例があり、腸穿孔の可能性が0でないこと」が欠点です。私はこれまでも数回、大腸内視鏡検査を受診しており、私の腸はそれほど挿入には難しくないようなので、とりあえず65歳までは毎年の便潜血検査に加え、2年ごとに一回大腸内視鏡検査を受診することにしました。しかし検診もさることながら、大腸がん予防のためには身体活動量をあげ体重をコントロールして、発がんリスクを減らすことを心がけたいと思います。

問題はがんの死亡原因として第1位の肺がんです。アスベストや粉塵曝露の経験もありませんし、既に禁煙して20年以上はたっていますので、肺がんのリスクはそれほど高くはないでしょう。なにしろ酒場でもタバコの煙に近づかないように細心の注意をしています。
しかし、肺がんは非喫煙者でも50歳から罹患率が上昇するので肺らせんCTを受けるかどうか悩ましいところです。というのも、らせんCTは過剰診療の可能性と有効性の証明がまだだからです。年をとって肺がんで死ぬのはあきらめられますが、「子どもが大学をでるまでは死ねぬ」と度胸を決め、全く医学的根拠はありませんが、50歳、55歳、60歳の3回は受けようと決心しました。

妻へ贈るマイ検診プラン

次に妻の検診プランですが、女性は男性より若い年代でがんに罹患する危険があります。それは乳がんや子宮頸がんなどが若い年代で多いからです。また忘れてはいけないのは大腸がんによる死亡が多いのも特徴です。女性の死因は、男性に比べ圧倒的にがんが原因です。
そんな統計を心配するためについついがんに対してナーバスになってしまいますが、妻は心配性である私が立てたプランにはどうしても納得してくれません。子どもの出産を機に会社を退職して以来、主婦の定期健診すら受けようとしない妻にがん検診の必要性を説得することは一苦労です。
40歳代ですので乳がんのマンモグラフィーと超音波検査、子宮頸がんの細胞診はいうまでもなく、胃、大腸内視鏡もこの年代では、一度は受けてもらいたいと説得しています。最近では少し耳を貸すようになりましたが、その見返りに家族旅行を約束されました。がん検診は、自らがん検診の必要性を充分理解して受ける必要があり、家族の大切な人としてこれからも定期的にがん検診を受けてもらいたいのですが、説得作業にはいらぬ出費が増えそうです。

がん検診は人生と向き合うキッカケ

60歳未満でも7%の人はがんに罹患すると推測されています。7%という数字は一見少なく感じられますが、ソニーでの在職者死亡の第1位はがんであるという数字はインパクトがあり、働き盛りでのがんは、本人のみならず、家族にとってもやはり非常に大きな問題ではないでしょうか?がん検診は、人生においてどのようにがんと向き合っていくかを考えるものです。また、それと同時にがんは生活習慣を変えることで予防できることが明らかになってきています。がん検診を受けると同時に生活習慣を見直すことが大切だと思います。

【参考文献】
〔立道昌幸:シリーズがん検診の今「大切な“マイ検診プラン”」(ソニー健康保険組合HAIJII2011年7月号)〕

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