ソニー健康保険組合

文字サイズ
  • 小
  • 中
  • 大

Dr.コラム
<第11回>乳がんから身を守ろう

Dr.コラム 予防と検診 がんと生活習慣 がん情報のリンク

芸能人が、乳がんであることをカミングアウトされるなど、乳がんについて話題となっています。
現在の日本女性は45歳をピークに若年者の乳がんが急増し、12人に1人は乳がんに罹患すると言われ、この急増は非常に警戒する必要があると言えます。
そこで、乳がんから身を守るための対策について解説します。

若年者に急増している乳がん

日本人若年者の乳がんが急増しています。昔は欧米人に比べ乳がんに罹る率は低いのが特徴でした。「食文化が欧米化しているのに、なぜ日本人の乳がんが少ないのか?」と、欧米人の研究テーマになるほどでした。

若年者の乳がんが増加した要因について、「若年層を中心に食生活の欧米化が進み、その結果、欧米諸国の乳がんの罹患率に追いついた」という説があります。つまり、世代交代が進むにつれ、今後若い人だけではなく、 欧米人型のように60歳後半の方にも乳がんが増加する可能性が考えられ、なお一層注意が必要です。

乳がんと女性ホルモンの関係

乳がんには女性ホルモンのエストロゲンがその増殖、進展に重要な役割を持ちます。したがって、多量なエストロゲンに暴露されている方は乳がんのリスクが高くなります。また、肥満細胞においてもエストロゲンが産生されますので、肥満も乳がんの重要なリスクとなります。
近年、日本人女性は初潮が早まり、閉経が遅くなる傾向にあり、さらに少子化のために妊娠、出産、授乳する機会(この時期はエストロゲンに代わりプロゲステロンが優位)が少なくなったため、エストロゲンに暴露される期間が長くなりました。これも乳がんの罹患に影響を与えていることは確かです。一方、エストロゲンは脂質を下げ、動脈硬化を予防します。したがって、閉経前の女性は男性に比べ心筋梗塞などの罹患が少ないのが特徴で、閉経と共にエストロゲン濃度が低下すると心筋梗塞のリスクが急激に増大します。ホルモンは多くても少なくても障害いをおこすので調整が難しいものです。

年齢に応じた乳がん検診+自己触診を!

日本では現在、40歳以上に2年に1度マンモグラフィーの検診が推奨されています。
マンモグラフィーは「しこりのできないタイプのがん」の発見に役立つ反面、「乳腺の密度が高い若年の日本人」に対しては、その感度が落ちます。ですので、がんから自分の身を守ろうとする場合、年齢に応じてその対応は個人個人で異なります。

具体的には、超音波(エコー)検査が早期のがんを見つけるのに有効であると報告されましたので、若年者には超音波検査の受診を、40歳以上の方にはマンモグラフィーと超音波検査の両方の受診をお勧めしています。
またMRI(磁気共鳴画像)も検診にどうかと検討されていますが、まだその有効性については議論があります。

現在、これら検診以上に見直されているのが、自分での触診です。以前、自己触診の普及、啓発に待ったがかかったことがあります。「がんでないものを過剰にがんと診断される可能性(過剰診断といいます)が高くなることや、検診受診率が低くなる」という研究報告が出されたためです。
しかし、その後、新しい研究は報告されておりませんし、乳がんは自分で触診することで異常を発見することが可能ながんです。精密検査の精度が上がり、過剰診断の問題は少なくなっている現在、検診と組み合わせることによって今一度、自己触診を見直したいと思います。
※自己触診の方法はこちらをご覧ください。

がん検診で要精密検査と言われた・自己触診でしこりが見つかったら?

がん検診や自己触診で異常が見つかっても「忙しい」「めんどうくさい」「病院にいきたくない」などの理由から放置される方が、結構多くいらっしゃいます。また、一方で、「精密検査」ということでもう「がん」であると思って悲観し、受診するのが怖いといって精密検査を受けられない方もおられますが、乳がん検診で「要精密検査が必要」といわれた、自己触診でしこりが見つかったときは慌てず、乳腺専門外来を受診してください。
インターネットで「ブレストセンター」「ブレストケアセンター」と検索すれば、専門病院が見つかります。

はたしてがん検診は有効か?

私は「がんは交通事故のようなものである」と例えます。自分がいくら注意していても、相手が高速で衝突してくれば命を失います。しかし通常のスピードを守り、よく注意して運転し、シートベルトをしていれば交通事故による死亡を回避することは可能です。「よく注意する」つまり、生活習慣を見直し、そのリスクファクターを減らすことで、がんにかかることを防ぎます。

「シートベルトをする」つまり、毎年きちんとがん検診を受けることです。マンモグラフィ、超音波、自己触診と身を守るシートベルトは幾重もしていれば、事故に遭っても(がんに罹っても)命が助かる確率は高くなるのです。
がんも交通事故のケガのように、ほんのかすり傷から重篤なものまで様々です。シートベルトをしていれば救える命は必ず守りたいと思います。

【参考文献】
〔立道昌幸:がんについてもっと知ろう 乳がんから身を守ろう!(ソニー健康保険組合HAIJII2016年1月号)〕

ページ先頭へ戻る